ブログ―業務雑感―
情報発信と私自身の備忘も兼ねて、ブログを更新していきたいと思います。
1か月に1つは更新していくことを目標にしています。
2018年
1月
31日
水
弁護士のための医療過誤訴訟法講座
1月27日(土)に医療事故情報センター・医療過誤問題研究会共催の「弁護士のための医療過誤訴訟法講座」に参加してきました。
今回の講座は、元裁判官で、名古屋地方裁判所の医療集中部の部総括判事を務められたご経歴もある、加藤幸雄弁護士を講師にお招きして、「医療事件における弁護活動の在り方について」と題して、医療事件での弁護活動における工夫の仕方、留意点についてご講義いただきました。
今回の講座には、「的確な認定・判断を得るためのささやかな工夫」という副題も添えられていましたが、「ささやか」というどころか、大変に示唆に富んだお話を伺えました。
私は司会進行のお役目もしながらではありましたが、非常に熱の入ったお話を間近で拝聴することができました。
全体を通しての感想として、「わかりやすさ」というものが、当たり前のように思えて非常に大事なのだということを感じました。
今回は「弁護活動の在り方」ということで、訴訟における弁護活動が念頭に置かれていましたが、これは私たちが相談者・依頼者の方とお話をする際にも当てはまることかもしれません。
弁護士の事件処理には、相談者・依頼者の方とイメージを共有しながら進めていくことが大切です。
特に、医療事件については、私たち弁護士も医療の専門家ではありませんので、相談者・依頼者の方と二人三脚で進めていく姿勢が強く求められると思います。
そのためには、当該事案の全体像はどのように理解されるか、相談者・依頼者の方の感じていらっしゃる疑問点がその中でどういう位置づけになるのか、法的な論点として整理した場合にはどうか、立証の見通しがどこまで立つかなど、文献や専門家の意見、訴訟の具体的な進行等に基づいて、できる限りわかりやすい方法でご説明することが必要だと思います。
わかりやすい説明というのは、気にかけているつもりでも意外とできていないことが多いように感じます。
改めて、今回の講座の内容を肝に銘じながら、日々の業務に取り組んでいければと思います。
2017年
8月
31日
木
環境管理も医療安全の一環
時折、病院の中で薬品が持ち出されたり紛失したりしていたという報道を目にすることがあります。
【朝日新聞 2016.10.21 患者の点滴に穴、鎮痛剤アンプルなくなる】
http://www.asahi.com/articles/ASJBP2S9NJBPTZNB001.html
【中日新聞 2017.8.18 市民病院看護師が麻酔薬盗んだ疑い】
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017081890134230.html
下の事件のように、故意的に持ち出されたという場合は、持ち出した側に主たる問題があるのは言うまでもありませんが、そこに責任を押しつけるだけでおしまいということではいけないのだろうと思います。
医薬品は、良くも悪くも健康に影響を及ぼすものです。
使い方や量によっては生命の危険もあります。
これがきちんと管理されず、持ち去られてしまった場合、単に病院としての経済的被害という以上に、たとえば入院している患者さんや全く関係のない第三者にまで危害が加わる危険もあります。
こうした場合、本来被害者であるはずの医療機関の責任はどう考えることになるのでしょうか。
理屈の上で言えば、本来きちんと薬品を管理(薬品室の施錠、定期的な在庫確認、入出庫の記録、薬品を乗せたカート等を放置しないなど)しなければならなかったところこれを怠ったと評価される以上、結果発生への寄与度は考慮されるにしても、まったく責任がないということにはならないはずです。
私が昨年受講していた医療安全推進者講座でも、「事故防止職場環境論」の中で、次のような記載がありました。
===以下引用===
( 6 )薬品棚の整頓
薬品棚の置き場の表示を徹底し、置き方も平行・直角に置くようにルール化している・・・。
【効 果】
○ 薬品が定置に置かれる
○ 薬品の在庫がひと目で分かる
○ 置き場所が決まっているため、間違って取り出すことがない
===以上引用===
薬品を間違って取り出したりしないようにという目的のほか、薬品棚を整理整頓しておくことで、薬品のあるなしがひと目でわかるようになるということです。
これは、単に在庫切れを回避するという以上に、本来あるはずのものがないことに気づくことができるという効果も含まれていると理解されます。
当然、あるべきものがないとなれば、どこにいってしまったのか、所在を確認しなければということになるはずです。
見方を変えると、このようなちょっとした心がけで、大事に至る前に手を打つこともできるようになるわけです。
ひとくちに「医療安全」と言っても、その定義は必ずしも一義的ではないのでしょうが、信頼される医療を行うことも医療安全に含まれるのであれば、こうした医療を行う環境の管理も、医療安全の一環として見ていかねばならないのでしょう。
2017年
7月
31日
月
過程がわかる説明を
群馬大学病院で同じ医師が執刀した手術で、患者さんが相次いで亡くなっていたという問題について、新たな報道がありました。
【共同通信 2017.7.31】
https://this.kiji.is/264498732904367607?c=110564226228225532
7月30日、病院側が遺族らに対して説明会を開催したということです。
この説明会の場には、執刀医であった男性医師とその上司にあたる元教授も立会い、男性医師らから直接説明がされたようです。
医療行為を受けた中で何か好ましくない結果が起きてしまった場合、しばしばこうした説明会が開催されることがあります。
ときには病院側から自発的な提案がされることもありますが、多くの場合、患者さんやご遺族の側から説明会開催の要請がされたことを受けて開催されているように思います。
報道で紹介されている説明会も、遺族らの求めに応じた形となっているようです。
こうした説明会は、患者さんやご遺族と当該医療者側との対話の機会ともなり、大変有意義なものだと思います。
私自身、以前に担当させていただいた事案で、報道にあるのと同様、執刀医の方が直接説明会の場に臨んで術中の経過や率直なお気持ちをお話いただけたことで、早期解決を見ることができたという経験もあります。
説明が行われる上で大事なことは、事実に即した説明が行われるということだと思います。
患者さんの主訴、他覚所見、検査結果などの具体的事実を、医療水準として確立された医学的知見にあてはめるとこういう評価になる、その評価を前提にすると次はこういう手順を取ることになる・・・という形で、ひとつひとつの事実を追って論理的な説明がされることが重要なのです。
当該事象が起こるに至った過程(時に実際に医療を行った医師の思考過程である場合もあります)がわかるような説明であれば、患者さんやご遺族としても、なるほどそういうことが起きていたのかと理解することができます。
せっかく実現した説明会が意義深いものとなるためにも、スタンダードな医学的知見を踏まえつつ、具体的事実に立脚した説明が行われること願っています。
2017年
6月
30日
金
リピーター医師 ~教訓を次に生かすために
先日、次のような報道がありました。
医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していたとして、日本医師会が、2013~2016年の間に27名の医師に対し、再発防止を指導・勧告していたというものです。
【毎日新聞 2017.6.26】
https://mainichi.jp/articles/20170626/k00/00m/040/115000c
この報道で、繰り返し医療事故を起こしてしまう“リピーター医師”に対する指導・改善を求める仕組みがあることを知りました。
上記報道の内容と、日本医師会のホームページで公表されている「医療事故を繰り返す医師に対する「(仮称)指導・改善委員会」の設置について」(日本医師会 会員の倫理・資質向上委員会(平成25年2月))とから、医師賠償責任保険の運用を、リピーター医師への指導・改善につなげる契機としていることがわかります。
【医療事故を繰り返す医師に対する「(仮称)指導・改善委員会」の設置について】
http://dl.med.or.jp/dl-med/nichikara/houkokusyo/kairin24.pdf
運用の趣旨としては、リピーター医師に対する自律的対応というところにあるようです。
私たち弁護士にも、弁護士会という職能団体としての自主性・自律性の観点から懲戒制度が設けられているところですが(弁護士法56条~)、懲戒の内容や制度運用の仕組みは大きく異なるようです。
報道にあるように、4年間で27名というのが多いのか少ないのかという評価は、正直なところよくわかりません。
不幸にも医療事故を繰り返してしまう医師がそれほど大勢いるとも思えませんし(そう願いたいという気持ちもあります)、もしかしたら氷山の一角なのかもしれません。
いずれにせよ大事なのは、単にリピーター医師をピックアップすることに終始してはならないということだろうと思います。
職能団体としての自律性を突き詰めていくのであれば、事実を適時・的確に拾い上げていく姿勢ももちろん重要です。
しかし、真の目的は、なぜ事故が繰り返されてしまったのか、単に当該医師の素因によるものなのか、院内のシステムとして事故が続発し得る環境であったのか、偶発的に続いただけなのか等を検証し、改善の可能性があるならば改善につなげていくことにあるはずです。
そうした仕組みがきちんと機能しているかをチェックする意味で、確認された情報は極力公表してほしいとは思いますが、報道の中で「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之さんが言及しているように、少なくとも医療界の中できちんと情報共有ができるような仕組みにしてほしいと思います。
起きてしまった事故・事象に蓋をしてしまうのではなく、それを教訓として医療界全体で共有していくことが、医療安全の水準の底上げにつながっていくのではないでしょうか。
2017年
5月
23日
火
再発防止を実効的なものに
とても心の痛む報道を目にしました。
【中日新聞 2017.5.23】
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017052390143241.html
甲状腺の手術後の出血により気道が圧迫されたことが原因で亡くなられてしまったという事案のようですが、各種報道によるところでは、当該病院では過去に2回同種の事故が起きたため、再発防止策として頸部手術後のガイドラインを作成していたものの、現場では十分に周知されていなかったとのことです。
医療事故が起きた場合、医療事故調査制度の目的がそうであるように、丁寧な原因分析とその結果を踏まえた再発防止策の立案が不可欠です。
私たちも医療事故に遭われた患者さん・ご遺族の代理人として対応させていただき、話合いによる解決が期待できるとなった場合には、多くの事案で、再発防止策の立案や実践を病院側に約束してもらうことをしています。
しかし、どんなに立派な再発防止策を謳い、大勢の専門家が集まってガイドラインが作られても、それが臨床の現場で実行されていなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
医療事故の再発防止策には、より医療を安全にしたいという医療者の方々の思いだけでなく、医療事故に遭われた患者さん・ご遺族の、我が身に起きたことをせめて次に生かしてほしい、同じような出来事で悲しむ人を増やしたくないという思いが込められているように思います。
それが、今回のように「絵に描いた餅」で終わってしまっては、患者さん・ご遺族の期待や願いは大きく裏切られることになるのではないでしょうか。
事故から学ぶということは、言うは易く行うは難しです。
しかし、現場の医療者の方々には是非、事故から得た経験を臨床現場に還元するための方法を模索し続けてほしいと思います。
私たちも、再発防止策の立案・実施を約束してもらっても、なかなか「その後」を見届けることができないという実情もあります。
再発防止策が確実に現場で生かされるためにはどうしたらよいか、私たちも考え続けていかねばなりません。
2017年
4月
30日
日
医療事故の再発防止に向けた提言
今月13日、医療事故の再発防止に向けた提言の第1号が公表されました。
【医療事故調査・支援センターWebページ】
https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=3
2015(平成27)年10月に医療事故調査制度の運用が開始されて以降、医療事故・調査支援センターがこうした再発防止に向けた提言を発表したのは、今回がはじめてのことのようです。
今回は、「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―」とのタイトルになっています。
「第1報」とされていることから、今後改訂の予定があるのかと思って見てみると、「1.はじめに」に、中心静脈穿刺に関連する死亡事例は従前から少なからず報告されており、医療事故調査制度開始後も依然として報告がされていることから、中心静脈穿刺合併症に係る死亡回避という重要課題に鑑みたとき、提言の改訂も含めた継続的検討を要するという認識のもと、「第1報」と位置づけたとのことでした。
ちなみに、提言で引用されているところでは、(公財)日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業によって収集・公開されたデータ(平成22年1月1日から平成28年8月22日)のうち、中心静脈カテーテルに関連する死亡例は122例であり、
そのうち、先生に関連するものは31例(25%)ともっとも多いようです。
今回の報告で分析の対象となったのは、中心静脈穿刺合併症に係る10例の死亡事例です。
全部で9つの提言がされており、
1)【適応】について
2)【説明と納得】について
3)【穿刺手技】について
4)【カテーテルの位置確認】について
5)【患者管理】について
の中心静脈穿刺を実施する各段階について、それぞれ提言がされています。
【穿刺手技】の提言(提言3~6)の関係では、Webページ上で動画による解説も閲覧できるようになっています。
こうした取り組みは、本制度の成果を臨床の現場に還元するものであり、再発防止を趣旨とする本制度の根幹をなすともいうべき非常に重要な取り組みでしょう。
今回の提言のように、単にとりまとめて分析・報告を行うだけでなく、課題の重要性に応じて継続的な検討を行っていくという姿勢もまた、制度趣旨を追及する姿勢の表れと評価できるものと思います。
なお、医療法6条の16では、各医療機関から報告のあった情報の整理・分析や、医療事故の再発防止に関する普及啓発は、医療事故調査・支援センターが行う業務として明記されているところです。
今回は提言の第1号ということですので、今後も第2号、第3号として提言が重ねられていくことでしょう。
ただし、このように提言が重ねられていっても、それがきちんと臨床や教育の現場に反映されていかなければ、せっかくの取り組みも無意味となってしまいます。
こうした提言がどのように現場で活用されているかといった点も、今後の関心事として注目していきたいと思います。
2017年
3月
28日
火
学域を超えた交流
2017年
2月
01日
水
診療情報を確実に伝達するためには
昨日の報道で、大変痛ましい病院での事故に関する報道がありました。
【NHK NEWS WEB 2017.1.30】
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170131/k10010858971000.html
検査の結果、肺がんの疑いが指摘されていたにもかかわらず、その後の診療でこの結果が把握されないまま1年以上無治療で経過してしまったというものです。
上記報道の中でも引用されているように、つい最近、愛知県内でも類似の事故があったことが報道されたところです。
【朝日新聞DIGITAL 2016.12.26】
http://www.asahi.com/articles/ASJDV5CQKJDVOIPE01J.html
私自身も、類似の事例を事件として扱ったことがありました。
当時は、こういうケースはかなり珍しいのではないかと思っていたのですが、上記NHKの報道によれば、日本医療機能評価機構では類似のケースに関する報告を、平成16年以降40件把握しているとのことで、こうした事故も一定数存在するのだなと思いを新たにしたところです。
このような伝達漏れはどうしたら防げるのでしょうか。
電子カルテが導入されている施設であれば、重要な診療情報に対するフォローアップがされているかどうかを自動検出したり通知したりといったことができるシステムが構築されるとよいのかもしれません。
しかし、最終的には人が確認しなければならない、人の作為が介在せざるを得ないので、それだけで万全かと言われると決してそうではないと思います。
むろん、電子カルテを導入していない施設では、人による確認に頼らざるを得ません。
では、どうすればよいか。
人的にも物的にも、およそ“完全”といったものを構築することは難しいと思いますが、少しでもこれに近づける体制を構築されるためには、こうした事故が起きてしまった背景事情をきちんと調査する必要があるのではないでしょうか。
こうした調査の結果を踏まえて、改善すべき点を改善する、足りないものを補うといった作業を積み重ねていくことが重要であろうと思います。
ところで、重要な診療情報の伝達漏れにより万一にも患者さんが亡くなってしまった場合、これは医療事故調査制度上の「医療事故」に該当するのでしょうか。
昨日、報道を受けて所内でも少しディスカッションしたところでもあるのですが、医療安全、再発防止という本制度の趣旨に立ち返れば、こうした事案こそ報告の対象とされ、院内調査が行われるべき事案であるでしょう。
しかし、「予期せぬ死亡・死産」という要件との関係では、非常に判断が難しい局面であるようにも思われます。
「医療事故」の定義のあり方については、厚労省の検討会でも色々と議論のあったところではありますが、制度趣旨が全うされるような運用、改正が期待されるところです。
※上記議論は、あくまでも一般論として措定したシチュエーションです。
報道のあった患者さんにおかれましては、いち早くご快復されることを心より祈念しております。
2017年
1月
26日
木
群大病院、職員研修講師に医療事故遺族ら
先日、インターネット上のニュースで次のような記事を目にしました。
【産経ニュース 2017.1.10】
http://www.sankei.com/life/news/170110/lif1701100026-n1.html
群馬大学病院で同じ医師による腹腔鏡手術等を受けた患者さんが相次いで死亡していたことが判明したという事件が報道されたことは、まだ記憶に新しいところです。
群馬大学病院ではこの経験を踏まえ、病院職員の研修のために他の医療事故で亡くなった患者さんのご遺族を講師に招いた研修を行っていくとのことです。
事件そのものを決して軽視することはできませんが、それに目を背けることなく、医療事故に遭われた患者さんやご遺族の気持ちや考えを知る機会を設けるという姿勢は、評価されてよいものと思います。
言うまでもなく、医療は医療者と患者の協同で作り上げられるものです。
そうである以上、医療安全もまた、両者の協同によって文化として根付いていくものといえます。
「医療側」「患者側」という二項対立で切り分けてしまうのではなく、両者の交流の中でこそ、より良い医療が作られていくのではないでしょうか。
今回の群馬大学病院の取り組みが、やがては医療安全文化として力強く根付くことを大いに期待したいところです。
2016年
12月
31日
土
医療事故調査制度1年の動向
2016年、皆様にとってどのような1年でしたでしょうか。
本年は、新しくこのホームページを立ち上げました。
当初、月に1度のペースを目標にブログを更新して、情報発信をしていこうと思っていましたが、ホームページ開設からわずか4か月でその目標が達せなくなってしまいました・・・。
2017年は、この目標をきちんと達成できるように精進して参りたいと思います。
さて、本年は、医療事故調査制度が昨年10月1日の運用開始から1年を迎えました。
これを受けて、(一社)日本医療安全調査機構では、本年11月に「医療事故報告等に関する報告について―医療事故調査制度開始1年の動向」が公表されました。
機構では、本年7月に、「医療事故報告等に関する報告―制度開始6か月の動向―」として平成27年10月から本年3月までの制度運用状況の報告がありましたが、今回の「1年の動向」は同じく平成27年10月から本年9月までの1年分の運用状況を報告するものです。
「6か月の動向」は既に刊行物として冊子での入手が可能です。
【6か月の動向】
https://www.medsafe.or.jp/modules/news/index.php?content_id=26
「1年の動向」は、Web上から「要約版」「数値版」がそれぞれおpdf形式で入手可能です。
【1年の動向】
https://www.medsafe.or.jp/modules/news/index.php?content_id=30
「1年の動向」の「数値版」を見ると、医療事故調査・支援センターへの相談件数・内容や診療科別の報告状況等が統計的にまとめて報告されています。
この中で、いくつか、個人的に気になった点をご紹介します。
死亡から事故報告までの期間として、最短で2日、最長で237日、平均31.9日という結果が報告されています。
医療事故調査制度の対象となるのは死亡事例であるため、原因究明のためには病理解剖を前提とした調査が行われることが極めて重要であると思います。
一方で、ご遺体は亡くなったその瞬間から死後変化が生じる上、医療法上の「医療事故」として適時に報告されないと、ご遺族がご遺体を荼毘に付してしまうこともあり得ます。
そのため、医療事故調査制度では、初動が極めて重要であるといえるでしょう。
ところが、上記報告結果を見ますと、死亡から報告まで平均31.9日、最長で237日という例もあったようです。
237日というのは極端な例かもしれませんが、報告までの間に病理解剖が実施されていなければ、もはや解剖を前提とした調査は実現し得ません。
迅速かつ適時の報告がなされることが、今後の課題のひとつといえるでしょう。
それでは、解剖はどれほど行われているのでしょうか。
「1年の動向」では、解剖・Ai(Autopsy imaging:死亡時画像診断)の実施状況も報告されています。
これを見ると、本年9月末時点で院内事故調査報告書が作成された全161件のうち、解剖が実施された例は52件と全体のおよそ3割にとどまっています。
様々な理由で解剖の実施が困難な場合でも、Aiにより死亡時点での身体情報を保全することが可能な例もありますが、Ai実施例も56件と全体の約3割程度です。
ちなみに、両方行われた例はわずか19件であったそうです。
解剖もAiも施設によっては実施困難なケースもあろうかとは思いますが、医療事故調査等支援団体との連携により少しでも実施例が増えていくことが望まれるところです。
医療事故調査制度運用開始から1年が経ちましたが、私としてはまだ1年と受け止めています。
経験のないことでもあり、多くの医療機関で医療事故調査制度上の院内事故調査を行うことへのとまどい・困惑等があると聴きます。
今後、少しでも多くの事例が報告されたり、医療機関相互での情報交換等を積み重ねていくことが重要だろうと思います。